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橋のデザインとは橋のデザインを行う上で、知っていてほしい基礎的な知識を「橋梁美学」という文献の中からご紹介します。 橋梁デザインとは 「私は設計する際、まずあれをつくってその後にこれをつけて、という考え方はとらない。常にいろいろな要素を一種に考えるから、こういう橋の造形が可能になるのだ。デッサンをしながらちょっとした構造計算を行う。橋の景観だけをとっても遠くから見た風景としての視点、通行人の視点、車や電車からの視点を一緒に考える」 最近世界的に注目されているスペインの構造デザイナー、サンティアゴ・カラトラバのこの言葉は、橋梁デザインの本質を最もわかりやすく具体的に、かつ雄弁に物語っているのではないでしょうか。
橋の美のとらえ方 −橋梁美学から橋梁景観デザインへ− 橋は、古今東西を通じてその美しさについて関心を持たれてきた唯一の土木構造物でしょう。それは橋が目立つ構造物であり、ランドマーク的な役割を果たす場合が多いことや、渡るという行為を通じて世間一般の人々にも関心の深い構造物であることによるものでしょう。昔から道具など物が備えるべき条件として、「用・強・美」という言葉が広く用いられていますが、橋にとっても美は必要かつ重要な要素です(これは橋にかぎらず土木構造物全般について言えます)。そのため、橋の美については昔から様々な人がさまざまな意見を述べてきています。 加藤は『橋梁美学は橋梁という実用的目的を有する構造物に関する一種の応用美学である』と橋の美をとらえ、その基本は「多様の統一」にあるとしています。美的対象としての橋梁は、橋梁を構成する各部材、橋脚、橋台、その他環境のすべてを含む要素から成り立っていて、要素が複雑で数が多いほど、その構成も多様です。そして橋梁の美的効果は、その多様性の統一、換言すればそれらの要素が、ある一貫した何者かを持ってまとめられたときはじめてそこに得られるものです。それは、表現美、形式美という言葉で言い表わされますが、橋梁の場合には特に形式美が中心となると考えられます。 鷹部屋は、『美とは均整あるものの知覚によって喚起せらるる快感である。』という観点から橋の美について考察し、直線と曲線の美、安定の美と軽快の美、比例調和の美、周囲環境との調和、量の美、材料の美、変化と統一、色彩といった言葉と概念を挙げて説明しています。また、『これらは重要ではあるが、これのみあるに非ずして、力学上の合理的構成の美を必要とする』として構造美としての重要性も強調しています。
ビリントン(D.P.Bllington)は、橋の美しさの要素は3E、すなわち機能性(Efficiency)、経済性(Economy)、優雅さ(Elegance)であるとしています。 レオンハルト(F.Leonhardt)は橋の美しさの基本原則として機能の充実、プロポーション、秩序(Order)、形の洗練、周囲への統合(Integration)、表面のテクスチュア、色彩、特性(Charactor)、複合性(Conplexity−多様性による刺激)、自然との一体化(自然を取り込むこと)の10項目を挙げています。そのうえでアーチ、桁橋、トラスなどを主として構造形式別に橋の美的設計のガイドラインを示しています。 ミューレイ(J.Murray)は、『よい橋を設計するためには、なぜそれがよいかを言葉で表現できなくてはならない』として、調和(周辺環境との視覚的な調和)、プロポーション(構成部材間の位置関係や寸法の割合)、視覚的安定性(すべての視点から見た構造物の視覚的安定性)、光と陰(陰の部分の全体に対する効果、構造物の設置方向)、テクスチュア(材料のテクスチュア、装飾の是非、経年変化のチェック)、色彩(主観的要素が強いが基本的には周辺環境との調和が必要)の6つのキーワードで橋の美的良否を論じています。 最近は、上記のような橋梁そのものに関する橋梁美学的な論議に加えて、橋梁と周辺と視点との関係による見え方の変化(視点場という概念)にもとづいた橋梁の景観という観点から論じられる傾向にあります。 田村は橋梁の景観は橋梁本体と周辺の環境、視点の位置の相互関係から構成される(生じる)ものであり、それらは視覚的特性から遠景、中景、近景、橋面上空間、桁下空間に分類できるとしています。また、橋梁本体は視覚的には形態、スケール・テクスチュア、色彩の4要素から構成され、さらに形態はプロポーション、視覚的連続性、リズム、力学的明快さの4要素から構成されるとしています。そして美しい橋をデザインするには、これらの諸要素が形のうえでできるだけよく表現されていることが必要ですが、それらは前述の遠景〜近景の中でその重要度はそれぞれ異なってくるとしています。 土木学会はこれらの考え方を踏まえた上で委員会により「美しい橋のデザインマニュアル」を刊行しています。 以上の他にも橋の美しさについて数多くの見解や論文がありますが、ここではその一例として上記を挙げたにすぎません。これらはそれぞれ各人が各様の言葉や概念を用いて橋の美を説明しており、同じような内容が違う言葉で説明されていたり逆に、同じような言葉でも違った意味や概念として用いられたりしているものもありますが、全体として橋の美しさの要点がどのへんにあるかが理解できるでしょう。
抑制の効いた洗練 いずれにしても、共通して言えることは、橋の美しさというものは、橋を構造的に見た場合の上部工と下部工、橋梁本体と付属物といったようにそれぞれを部分(部品)にわけて考えるものではなく、常に橋を全体としてさらには周辺も含めてその中での各部のバランスを考え、それらを周辺との調和や視点の位置と橋との関係の中でとらえるものであり、単なる装飾ではないという点では共通したものを持っています。
橋梁景観と橋梁デザイン 橋梁デザインを行う上では、橋の景観(美)というものをデザインという行為に直結した形で理解しておくことが有効です。そこで、橋梁景観の考え方を、デザインと関連づけて具体的に整理しておくことにします。 まず橋を外から見る「外部景観」と、橋上利用者から見る「内部景観」とに分ける考え方があります。外部景観は視点の位置によって遠くから眺める場合の遠景、近くから眺める近景、その中間の中景とに分けられます。さらにこれに橋を見る角度の違い(水平方向と鉛直方向)が加わります。これらの条件の組み合わせによって、橋は様々な形に見えます。ある場合には平面的に、ある場合は立体的でダイナミックな印象、鉛直方向では鳥瞰や見上など特徴的な見え方もあります。このような見え方を具体的にとらえて形態を検討すべきですが、橋自体の景観要素はスケール、形態、テクスチュア、色彩といわれ、これらは、このような視点場の中でデザイン上のウエイトが異なってくることにも注意する必要があり、デザイン上から見た特性は次のようになります。 遠景−遠景として見える橋は、周辺の地形や地物とともに一つの風景として把握されます。それゆえ橋には、その地域性を踏まえた周辺環境との調和が大切です。橋はその風景の中でスケールの大きい橋ではそれがよりよく強調されて目だったり、スケールを活かせない橋では目立たぬように消去されたり、あるいは程よく見えて融合する場合があります。また、形態の大まかなアウトラインが見えるため、構造形式による形態とのかかわりが強いものです。特に橋上に構造体のある橋(吊橋、斜張橋、下路アーチなど)は高さがあり、その形態的特長と相まってランドマークとなりやすくなります。色彩は点景色として背景の色との調和が問題となります。 中景−近づくにつれて橋は視界の中で大きくなってゆき、やがて視界一杯に拡がってきます。橋梁景観としても、デザイン上でも近景とともにもっとも重要な領域です。ここでは、構造物全体の形態や色彩がつぶさに見えると同時に、近い場合には、構造のディテールや、取付け部、脚元などが目に付きますが細かいディテールなどはあまり問題となりません。デザイン上は本体はもちろんのこと、このような周辺との接点も大切に扱う必要があります。ここでは、主として形式美とか、周辺との調和が問題となります。 近景−近景での橋は、より細やかなディテールとしての形状や、テクスチュア(質感)、素材感、色彩を見せるとともに視点付近の空間構成要素としての働きを持ってくるので、全体の形態以上にこれらの要素のデザインが重要となります。橋梁などの土木構造物は、一般に人に対してスケール感が大きいことが多く、近景では、巨大さ、圧迫感などを感じさせることとなりやすいものです。形状を分節したり、テクスチュアをつけるなど、ヒューマンスケールにする必要があります。また特殊な場合によっては橋下から見上げる視点場が重要なタイプもあるが、その場合は、桁裏を明るく軽やかに見せる工夫が必要になります。 内部景観の特性としては、走行車(者)と歩行者の視点があります。走行者からは動的な視点となり、車のスピードでは細かな形は見えません。バスを除くほとんど前方を見るため側面の形態は走行方向に圧縮して見えるなどスケール感が異なりますが、おおらかで明快な形態が望まれます。
橋のデザインについての歴史は深く、昭和の戦前の時代にすでに橋梁美学についての議論がなされていたとは驚くべきことです。ここでご紹介した橋のデザイン論は、はじめて橋のデザインに触れる方にとっては、少々難しかったかもしれません。その難しさと奥深さは、橋のデザインの歴史が培ってきたものですので、橋のデザインに興味を持たれる方は、ご紹介した文献等を、ご自身にて熟読していただくことをおすすめします。 ここで、ひとつ素敵なお話を紹介しましょう。ローマ法王の正式名称は、「Pontifex Maximus」というそうです。英語に直訳すれば、「Bridge Engineer in Chief」すなわち「最高の橋梁技術者」を意味します。橋を僧侶が建設していた頃の名残りであり、その時代、橋梁技術はずばぬけた信心を持つ人のみに与えられる神の霊感と考えられており、最高位の僧侶は同時に、「最高の橋梁技術者」と呼ばれたのだそうです。 デザインする対象物橋のデザインにおいて、デザインする対象物を、@橋の利用形態、A橋の材料、B橋の形式、の3つに着目して整理すると、おおむね以下のようになります。
@橋の利用形態による整理
A橋の材料による整理
B橋の形式による整理 (出典:愛知県 橋梁設計の手引き) デザイン活動の場橋のデザインにおけるデザイン活動の場は、橋梁に関わる行政、橋梁計画・設計者、橋を得意とするデザイナーなどが中心となります。代表的なデザイン活動の場をいくつか挙げてみましょう。
など。 |
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