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 環境デザインのたしなみ > 環境デザインの領域 > 水辺のデザイン

 水辺のデザインとは

 水辺のデザインを行う上で、知っていてほしい基礎的な知識を「水辺の計画と設計」という文献の中からご紹介します。

  (出典:水辺の計画と設計、吉村元男、芝原幸夫、鹿島出版会)
※1 緑文字での表記は上記文献・サイトからの引用物を示す, ※2 語尾をです・ます調に変更した

水辺の計画と意義

水辺への要請

 近年、町づくりを進めるなかで、河川、池沼、海などの水辺空間に着目し、水辺環境のあり方から都市を見直す動きが見られるようになりました。そこには巨大化し、非人間的な環境となった都市のなかに、うるおいややすらぎ、親しみのある水辺空間を取り戻そうという人々の本能的とでも言うべき願いが読みとれます。そのような動きは、今日では水辺空間における「親水性の確保」として認識されるようになりました。
「親水性」とは何か。「親水」という造語が使われるようになったのは、昭和40年代の後半になってからです。「親水」は、河川に対するそれまでの主要な社会要請であった「治水」、「利水」という2つの機能に負荷すべき機能として注目を集めるようになったものです。
「親水」を狭義に解釈すると、水遊び、魚釣りなどのレクリエーション機能を意味するものとして捉えられますが、その後、生態系の保全、景観を通しての心理的・情緒的満足などの概念をも包含します、河川の「環境形成機能」を象徴する用語として広義に用いられるようになりました。また、それは河川のみならず、池沼や海などの水辺においても該当する概念としても使われるようになりました。

そのような意味を持つ概念として「親水」という用語が使われだしたのは、それまで「親水」という用語がなくとも、全国の河川、用水路、湖沼、海岸などが「親水機能」を自明の理として果たしていたものが損なわれ、そのような機能を果たしえなくなってきたためです。
水辺空間の「親水機能」の減衰・喪失の原因は多種多様であるが、河川を例にとれば、その主要なものとして、水質の汚濁、極度の取水による河川流量の低下、水害に対処する画一的な河川改修による河川断面形状の変化などがあげられます。これらは、河川が本来有していた複合的な諸機能のうち、ごく一部の機能のみを拡充する方向で対処されてきたためです。一部機能の拡充が親水をはじめとする他の機能を減衰・喪失せしめたのです。このような図式は河川のみならず海岸などの場合も同様です。
こうした事象が生じたのは、水や水辺空間の計画思想に、総合的な視点が欠落していたからですが、また、その背後に過大な負荷を水辺にしわ寄せしながら進行した急激な都市化があることを認識する必要があります。いわば「親水性の確保」がさし迫った表面的な問題であるとするならば、都市化が引き起こした水辺にしわ寄せした複雑な負荷が、その背後にある根本的な問題です。したがって、豊かな水辺空間の創出にあたっては、水辺空間がもつこのような問題の構造を的確にとらえたなかで、水辺空間のもつ総合的な機能あるいは価値をバランスよく引き出すような対処のあり方が重要な課題なのです。

 

望ましい水辺の創造に向けて

@自然としての水辺の認識

すでに河川、海の水辺を取りまく問題の構造とそれを解決すべく試みられている対応策の現況について述べてきました。しかし、それらの対応策が真に河川、湖沼、海が現在抱えている問題の解決につながり、親水機能を有する豊かな水辺空間が創造されるかについては、結局、われわれの水辺に対する認識や姿勢が変革できるか否かにかかっているように思えます。
つまり、河川、湖沼、海のつくり出す水辺を、自然を構成する要素として再認識し、「自然の一部としての水辺」との付き合い方が出来るかということです。

河川であれば、明治以来、われわれは川を、また、その水系として一つにつながった湖沼や溜池を自然を構成している要素として十分に認識してきませんでした。すなわち、川は厄介の洪水や汚れた水を海まで運んでくれる排水路であり、都市生活や産業に必要な水を提供してくれる便利な路や水源地であり、まさにそれらの目的のためのみ、川は存在するという認識が支配的でした。つまり、川を自然としてでなく、きわめて即物的に、利己的に、もしくは道具、資源としてしか扱ってこなかったのではないでしょうか。したがって、水害に対処する河川改修も出来るだけ早く下流へ流すという発想しか生まれてこなかったし、河川本来の自浄作用を損なうまでの河川水の収奪や水質の汚染が容認されてきたように思われます。
海岸においてもそれは例外ではありません。水辺空間が容易に実利的な土地利用が可能であるという一面的な価値のみで、砂浜や干潟などの渚がもつ自然本来の浄化作用を損なうまでのお埋立地化が進められてきたし、臨海低地部の地下水の収奪が行なわれてきました。

川や湖沼、海岸の水辺はわれわれにとって何であるのか。われわれはすべての水辺に対して、あらためて自然環境の一構成要素としての水辺の理解と認識に立って、洪水処理や水利用の計画を樹立すべきでしょうし、有限な海岸線の適正な土地利用計画を検討すべきです。しかもそれは、常に自然のもつ多様な価値を、相対的に引き出すといった思想が必要です。そのことは、これまでの野放図な都市化に制限や歯止めをかけることになるかもしれません。しかし、そのような制限や歯止めによる都市の再構築が、都市そのものの存続と反映を保障することは、歴史の教えるところです。

A水辺を骨格とした町づくり

都市の中の水辺は、かつて排水、用水をはじめ水運などの実利的なものであるとともに、その都市の顔として個性ある表情を形成していました。また、水辺は緑とともに都市の中の貴重な自然空間として、魚や昆虫をはじめとする豊かな生物層を育む場でした。さらにそのような水辺は、周辺の人々の散策、釣り、夕涼み、水遊びなど身近なレクリエーションの場でした。清冽な流れのあるまちでは、それが洗濯や野菜・食器などの洗い場として、また、各戸の庭の池泉に取り込まれるなど、生活と密着した形で利用されてきました。

このように都市の中の水辺は、その周辺に住む人々との多様な関わりの中で育まれ、維持されてきました。いわば水辺が人々の生活の場のなかに、どっしりと腰を据えた存在で、水辺は多くの人々が使う共有の場、“おもて”として存在し、人々もまたそう意識していたと思われます。

しかし、多くの水辺がすでに述べたような過程で、その親水性を失い、水辺との多様な関わりが不可能になるにしたがい、水辺は人々の意識のなかから忘れさられ、建物や道路も水辺に背を向けるなど、水辺は次第に人々の生活の場の「表」の空間から「裏」の空間として様相を変えてきました。生活の場の中で「裏」の空間化することで、ますます人々の水辺の関心や愛着が薄れるなか、人々の意識や目が向けられなくなった結果、水辺はしばしばゴミ捨て場や汚水をたれ流す場として、またひどい場合には子供たちの水難事故の舞台ともなってきました。このような水辺が汚らしく、不快な存在になるにつれ、人々のなかにも「臭いから埋めろ」「子供が落ちるといけないからフェンスしろ」「フタをして公園や緑道にしろ」といった意見さえ飛び出すようになりました。実際、そのように埋め立てたり、暗渠化されたり、その上に公園や緑道がつくられた例も少なくありません。

このような急激な都市化がもたらした悪循環をたち切り、水辺と人々との豊かで多様な関わりを回復しながら、水辺の親水性を確保していくためには、すでに述べたような多くの問題を一つ一つ解きほぐしていく必要がありますが、さらに「臭いものには蓋をしろ」方式の対処の仕方でなく、水辺を再度、都市の「表の空間」として位置づけ、水際からの町づくりが進められねばならないと考えられます。それは水辺を再度、人々の目に触れる場にしつらえ、人々の意識のなかに存在させることです。それはいわば水辺を骨格とした町づくりなのです。

 

 この文献が書かれたのは、今から約30年前のことですが、その頃の水辺の状況と現在の状況は少しずつ変わりはじめています。当時から変わってきた水辺の動向として、以下のことが挙げられます。

  • 多自然型川づくりなどを代表とした水辺の自然回帰への取り組み
  • 川を上流から下流までの流域として捉える考え方の定着

 

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 デザインする対象物

 水辺のデザインにおいて、デザインする対象物を整理すると、以下のようになります。

(出典:写真はウィキペディア、文章はウィキペディアをもとに必要に応じて加筆)

大分類 小分類 水辺の概要

河川

大規模河川

大規模河川という明確な定義はないが、ここでは複数の県にまたがる大規模な河川と位置づける。目安として、国が管理する一級河川規模の河川と設定。

中・小規模河川

中・小規模河川という明確な定義はないが、ここでは単一の県または市町村を流れる中・小規模な河川と位置づける。目安として、県、市町村が管理する二級河川または準用河川規模の河川と設定。

都市河川

都市部を流れる自然または人工の流れで、多くの部分に河川改修などの人の手が加わっている河川。

河川護岸

河岸や河川の堤防が流れによって崩壊するのを防ぐため,地盤の表面や堤防の法面(のりめん)を覆って保護する構造物。すべての河川において、おおむね存在するもの。自然護岸、人工護岸、親水護岸、環境護岸など、さまざまな種類がある。

湖沼・溜池・ダム

湖沼のうち比較的大きなものであり、一般には水深 5 - 10 m より深いものを指す。

池・沼

池は、地表上の淡水で覆われた領域。通常、湖ほどには大きくないものを指す。同様のものを沼(ぬま)と言うこともあるが、特に明確な区別はない。
沼は湿地の一種。池や湖との区別は明確ではないが、一般に水深 5 m 以内の水域であり、イネ科やシダ、ヨシ、ガマ、スゲなどの草に占められ、透明度が低く、規模があまり大きくないものを指す。

溜池(ためいけ)

主に農業(灌漑)用水を確保するために水を貯え、取水設備を備えた人工の池。

調整池(ちょうせいいけ、ちょうせいち)

集中豪雨などの局地的な出水により、河川の流下能力を超過する可能性のある洪水を河川に入る前に一時的に溜める池。

ダム

治水、利水、治山、砂防、廃棄物処分などを目的として、川や谷を横断もしくは窪地を包囲するなどして作られる土木構造物。

港湾・海岸

港湾

古くは泊(とまり)などから発展した港・湊(みなと)であり、島嶼・岬などの天然の地勢や防波堤などの人工構造物によって風浪を防いで、船舶が安全に停泊し人の乗降や荷役が行なえる海域と陸地。

海浜

水辺に形成された地形の一種である浜のうち、海に面したものを言う。あるいはまた、陸が海に接する「海岸(海岸地形)」の類型の一つ。

干潟

海岸部に発達する砂や泥により形成された、ある程度以上の面積で維持されている低湿地。潮汐による海水面の上下変動があり、時間によって陸地と海面下になることを繰り返す地形。

海浜護岸

海岸において波浪や高潮,津波によって地盤や堤防が浸食されるのを防ぐため,地盤の表面や堤防の法面(のりめん)を覆って保護する構造物。すべての海浜において、おおむね存在するもの。自然護岸、人工護岸、親水護岸、環境護岸など、さまざまな種類がある。

造園・建築

鑑賞池

公園や庭園などに設置される鑑賞用の人口池。

せせらぎ

公園や遊歩道などの中に設置される、人工の小さな流れ。

噴水

池や湖などに設けられる水を噴出する装置、またはその水そのもの。広場、庭園や公園、特に西洋式の庭園の装飾的設備として設けられることが多い。

水景施設

建築の外構(外回りの修景)などに設置される人工的な水辺の施設。

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 デザイン活動の場

 水辺のデザインにおけるデザイン活動の場は、河川や海浜に関わる行政、河川・海岸・港湾などの計画・設計者、造園家、水辺を得意とするデザイナーなどが中心となります。代表的なデザイン活動の場をいくつか挙げてみましょう。

  • 国、県、市町村の行政機関(主に河川局、港湾局など)
  • 河川・海岸・港湾などの計画・設計を行う建設コンサルタント
  • 土木・ランドスケープなどのデザイン事務所
  • 土木分野の建設会社

など。

水辺のデザイン活動は、デザインへの造詣のみでなく、自然や生態系への造詣が強く要求される、とても難しい活動です。また、ダムなどの巨大構造物などでは、土木的な構造物に対する造詣も必要となります。
このようなデザイン活動では、デザインの対象物に応じてさまざまな職能の人々が集まり、チームとしての協働作業を通してデザイン活動を行うことも少なくありません。

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